ブランディッシュ3 -Spilit of Balcan-

ブランディッシュ3 -Spilit of Balcan-

マルチキャラクターシナリオシステムが織り成す多重的ストーリー

1994年に発売された『ブランディッシュ3 Spirit of Balcan』は、『ブランディッシュ』シリーズの三作目にあたり、流浪の剣士アレス・トラーノスを主人公とした三部作の完結編である。

物語は『2』から一年後が舞台となる。八年前、闇の力に囚われたフィベリアの王ギゼールを止めるため、ドーラの師匠である大魔導士バルカンは一人の傭兵と共に城へ向かった。師匠の後を追い、城の謁見室に入ったドーラが見たものは、ギゼールとバルカンの亡骸、そして血塗れの剣を持った傭兵アレスの姿であった。以来、師の仇であるアレスを追いかけてきたドーラ。二人はあたかも“バルカンの魂”に導かれるように、再び闇の力が蠢きはじめたフィベリアの地に足を踏み入れる……。

完結編にふさわしく、本作でアレスとドーラの因縁を生んだ“バルカンの死”の真実が明かされる。『1』『2』とプレイを続けてきたファンにはたまらないストーリーといえるだろう。

本作最大の特徴は、マルチキャラクターシナリオシステムの導入である。今回はアレスだけでなく、おなじみのドーラ・ドロン、『2』の闘技場に登場した女武闘家アンバー・ガルシア、おなじく『2』のボスキャラ忍者マスターを元にした謎の暗殺者ジンザこと尾白甚左衛門の四人からプレイヤーキャラクターを選択できる。なにより人気ヒロインであるドーラを操作できるということに狂喜したファンも多かった。シナリオも四者四様に変化し、多重的にストーリーを楽しめるのだ。

四人のキャラクターはそれぞれに特性を持っている。ほとんどの装備を扱えるアレスは二刀流や二盾流などを使い分けて戦術を考える醍醐味がある。ドーラは防御力こそ低いが、強力な魔法で爽快感のあるプレイを楽しめる。マウスさばきに自信のある人はクリック操作で多彩な攻撃技をだせるアンバーがオススメだし、ジンザも攻守にわたり役立つ忍術を使用できる。もともと『1』『2』の頃から“最短クリア”や“マップコンプリート”などを目指して繰り返しプレイするユーザーが多かったが、このマルチキャラクターシナリオシステムのおかげで飽きずにやり込み攻略が楽しめるのは大きい。

そのほかにもシステム面での進歩が著しい。フィールドには雨や霧などの天候変化が演出され、それに付随しモンスターも多彩になった。さらに“毒”や“錯乱”といった状態変化が加わり、リアルタイムアクションRPGとしての緊張感がより高まっている。そういった戦闘バリエーションの増加に伴い、ショップにはアンデッドを倒す神聖力の付加や魔法アイテムの強化、状態変化予防などの新要素が追加され、ゲーム性に深みが増しているのだ。

快適なプレイに欠かせないユーティリティもバージョンアップ。評価の高いオートマッピング機能は拡大画面が用意され、よりマーキングしやすいものになった。さらにオート移動機能は障害物の自動回避や自動戦闘の設定が可能になり、実用性が格段にアップしている。

また、本作のBGMの完成度は素晴らしい。FM音源愛好者なら必聴の出来映えである。随所に『1』『2』の名曲がアレンジされて登場するのも心憎い演出である。

本作だけでも十分に楽しめるクオリティであるが、ぜひとも『1』『2』との通しプレイをオススメしたい。トータルでバランスの良いシリーズであり、『ブランディッシュ』は三本でひとつの作品であるといっても過言ではないだろう。

PC-9800シリーズに残した貴重な忘れ形見

日本ファルコムの90年代を代表するシリーズ『ブランディッシュ』は、PC-9800プラットフォームと共に歩んだタイトルであった。高機能のパソコンがホビーユース層の手に届くようになりPCゲームの需要が拡大した時期に、グラフィカルユーザーインターフェースの一般化をふまえ、斬新なフルマウスオペレーションをひっさげて登場したのが第一作目の『ブランディッシュ』。そして、日本ファルコム最後のPC-9800シリーズ専用ソフトとなったのは、1996年にリリースされた『ブランディッシュVT』(後にWindows版『ブランディッシュ4』としてリニューアル)であった。現在までのところ、これがシリーズの最終作となっている。

『ブランディッシュ3』が発売された1994年は、おりしも前年に日本語版Windows3.1が発売され、翌年にはWindows95を控えたPC/AT互換機標準化の過渡期にあたる。他方、コンシューマ機においても最初の“次世代機争い”が始まった年である。この激変の時代に発売された『3』はシリーズ中唯一、コンシューマ機への移植もWindows版へのリニューアルもされていない。こうしてProject EGGのラインナップに加わるまで、PC-9800シリーズでしか楽しむことのできなかった一本なのである。

まさに日本ファルコムがPC-9800シリーズに残した貴重な忘れ形見とも言うべき『ブランディッシュ3』。今でも“キュッパチ”に愛着を持っているという人はもちろんのこと、スーパーファミコン版で『1』『2』をプレイしたという人にもぜひプレイしていただきたいタイトルである。

Text by 森瀬 繚(2011.06.04 掲載)

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