「ダームの塔が沈黙しました……。いかがいたしましょうか?」
これは『イースII』のオープニングに登場する台詞だが、ここからも分かるように、『II』は前作『イース』から直接つながる“完全な続編”である。一般的にゲームの続編といえば、主人公が交替したり、あるいは時代が数年後に飛躍したりするパターンが定番となっている。それに対して、『II』は前作のダームの塔でのラストバトルが終わった報告を聞き、すぐさま新たなボスたちが会議を開くほど間近の"続きもの"なのである。
前作の『イース』が登場した時期を境にして、RPGは一部のマニアに対する難解な挑戦状から、多くのプレイヤーに向けて開かれたエンターテイメントへと移っていった。その流れをつかんだ“今、RPGは優しさの時代へ”という同作のキャッチフレーズは実に秀逸だ。全てのゲームが“優しさ”を追求し始めたのが『イース』のおかげ、というのは少々過大な評価かもしれないが、少なくともパソコン用ゲームが閉塞せずに次のステップへと進む布石となったのは本シリーズの功績だと見てもよさそうだ。
そして『II』のキャッチフレーズは“優しさから感動へ”。前作の“優しさ”を受け継ぎつつ“感動”、すなわち感情を揺さぶるストーリー性を深めていくという決意の表れだ。前作が偉大であれば、名声に寄りかかる続編もままある。しかし『イースII』は前作を乗り越える道を選んだのである。
前作の“優しさ”のインターフェースは、この『II』でも変わりなく踏襲されている。燃えるような赤い髪がシンボルマークである主人公のアドルは、ひたすらに突撃して敵に体当たり。ちゃんと決まれば一方的に敵を倒せる“半キャラずらし”(敵と半キャラ分だけずらして接触すればダメージを受けない)もしっかり健在。町中や野外でじっとしていると体力が少しずつ回復するので宿屋に泊まる必要もなく、いつでもどこでもセーブ/ロードできる親切さも元のままである。
そんな継続性の一方で、細かな調整、と言ってすませられないほどの確かな進化も遂げている。従来はひとつのメニューに統合されていたステータス、アイテム(Inventory)、装備(Equipment)を、独立させてボタンを割り当て、剣やシールドの装備変更も混乱なくスムーズに行えるようになっていたり、画面の下部に注目すれば“M.P”、つまり魔力ゲージが新たに追加されているのだ。『II』のアドルは、全部で6種類の魔法が使えるようになっており、この中でも、最も多用するのは炎の弾を撃つ“ファイヤー”だろう。5発撃ってもM.Pを1消費するだけと燃費がよく、近づきたくない強敵も遠くから倒せる。特にボス戦ではあまりにも使い勝手がよかったことから、『II』はシューティングだと言われるほどだった。
魔法には攻撃の補助だけでなく、“タイムストップ”(一定時間、敵の動きを止める)や、“リターン”(村など拠点にワープする)など魔法らしいものも多い。特に“テレパシー”は、“聖獣ルー”に変身して言葉が通じない魔物と話したり、人間では立ち入り禁止エリアに出入りできたりと、実にファンタジーしている。ルーの姿が愛らしくて、ついつい意味なく変身することもあったのは筆者だけではあるまい。
また『II』を語る上で外せないのが、同時代のPCゲームの中にあっては、群を抜いて優れていたビジュアルだ。活き活きと躍動するドット絵は心浮き立つ楽しさを感じさせてくれた。その極めつけが、“記録より記憶に残る”オープニングだろう。朝日に照らされるダームの塔、疾走して流れゆく草原、天空に浮遊するイースの大陸。ヒロインのリリアが“振り返る”アニメーションに目を見張り、ショップ店頭でのデモにかじりついた人も少なくないはずだ。
今回、原稿を書くにあたってPC-8801版を立ち上げたところ、“記憶は美化されるもの”という先入観はこっぱみじんに吹き飛ばされた。さすがにドット絵こそ隔世の感はあるものの、FM音源を駆使したサウンドの鮮烈さは今なお古びていない。当時の旬だった音色は、いつまでも先鋭ぶりを保ち続けて心に深々と突き刺さる。原曲もいいが、ファルコム作品のサウンドトラックを多数手がけた米光亮氏によるアレンジ版も良かった。
サントラといえば、『イース』および『II』は、マンガやOVA化といったメディアミックスの先駆けでもある。ヒロイン“リリア”のイメージガールを選ぶ“ミス・リリア・コンテスト”(1990年に開催)を企画したことを含めて、『II』は最先端を往く作品だったのである。
Text by 多根清史(2009.04.19 掲載)