デーモンズリング

デーモンズリング

驚異のグラフィックス瞬間表示

初期のアドベンチャーゲーム(以下、AVG)は、テキストのみの実にシンプルなものだった。ところが、Appleから1977年に発売されたパソコンのAppleIIの登場によって、グラフィックスの表現が可能になると、それまでテキスト表示のみだったアドベンチャーゲームに、グラフィックスという要素が付加されたのである。さらに1980年にはシェラオンラインから“ハイレゾアドベンチャーゲーム”としてAppleII用AVG『ミステリーハウス』が発売されて大好評となり、これが現在のAVGの基礎になったといっても過言ではないだろう。こうした流れは日本にも伝播し、日本にAVGブームが到来するには、それほど時間がかからなかったのである。やがてパソコンの性能が向上すると共にAVGはグラフィックスの表現力を高め、「グラフィックスの進歩の歴史を見るには、初期のAVGを発売順にプレイしていけばよい」といわれるほどだった。

とはいえグラフィックの表示が可能になったとはいっても、初期のAVGは場面が切り替わるたびに線が描かれ、色が塗られるライン&ペイント式のものだった。シーンが切り替わるとプレイヤーはグラフィックスの完成を待つ必要があり、「いったいどんな場面が描かれるのか」という期待感や、熟考して次の展開を考えるのにちょうどいい時間だった半面、同じ場所を往来する場合などは描画によってゲームのテンポが断ち切られてしまうというデメリットもあった。

そうした従来のAVG観を一新する作品が、1984年3月に日本ファルコムから発売された『デーモンズリング』である。“驚異の瞬間画面出力”“画面表示はなんと一秒半以下を実現!”と、当時の広告やパッケージにも謳われているとおり、『デーモンズリング』の最大の特徴は、ゲーム中のグラフィックスの表示時間にあった。広告に謳われた表示時間は1秒半。当時としては瞬間的ともいえる描画速度はプレイヤーを驚かせ、雑誌の掲載記事などでも絶賛された。日本ファルコムも広告などでこの点を強くアピールしていることからも明らかなように、この仕様自体が販売のキャッチフレーズになり得るほど画期的なものだったのだ。

欧州絵画調電子冒険小説

『デーモンズリング』は、同社の『ホラー・ハウス』『狂気の館』といった先行作品の系譜に連なるオカルト色の強い作品である。パッケージは禍々しい悪魔をあしらった西洋風のイラストで飾られ、裏側にも悪魔像や骸骨戦士など、実際にゲームに登場する恐ろしい怪物の姿が踊っていた。こうしたオカルト色の強いホラー作品は、『ドラゴンスレイヤー』シリーズに代表される一連のRPG作品とはまた別に存在した、初期日本ファルコムのもう一つの顔だった。

物語は、伝説の魔王サローンに滅ぼされたエレミアの王クロウリーが、賢者ロイボスに末の息子デュムリンを託すところから始まる。やがて立派に成長した主人公デュムリンが、賢者ロイボスに出生の秘密を伝えられ、魔王を倒すとの決意と共に旅立つというのがこの作品の導入部で描かれるストーリーであり、ゲームの目的が魔王サローンの打倒であることを示している。

“欧州絵画調電子冒険小説”と広告で銘打たれたシナリオテキストは半角カタカナ表示という制約を超えてゲーム中の雰囲気をおどろおどろしく盛り上げ、欧州の古い絵画を意識したグラフィックスとも相まって『デーモンズリング』にダークファンタジー的な装いを与えている。タイトルにある“デーモン”というワードもそうだが、魔王サローンなどの名称からJ・R・R・トールキンの『指輪物語』を、主人公の父であるクロウリーの名から実在の魔術師アレイスター・クロウリーの名を、それぞれ想起するプレイヤーも少なからずいただろう。ほかにもマニュアルに協力団体として記載されている“心霊現象研究会”という謎めいた組織など、そこかしこに配置されたキーワードがプレイヤーの想像力を大いに刺激し、魔王の待ち構えるゲームの中へと導いていくのだ。

ゲームを起動すると、オープニングではいきなり迷路を歩いていくシーンが映し出される。次から次へと切り替わるグラフィックスは滑らかで、終わり表示されるのはパッケージ裏にも描かれている鎌を持った怪しげな人物の一枚絵。当時のプレイヤーは、このオープニングデモでまずグラフィックスの表示速度に驚かされたのである。

ゲーム本編は、呪われた家を中心に野外で展開する前半と、地下洞窟の迷路へ入り込む後半の二部構成となっている。ゲームはテキスト入力により進行し、アイテムを揃え、謎を解き、先に進むというオーソドックスなものだが、画面表示が早いためストレスを感じることなくプレイできる。

全編カナ入力なので、普段、ローマ字かな変換を使用している人には少々とっつにくいかも知れないが、これもまた昔のゲームを今、改めてプレイする際の醍醐味であると考えて欲しい。理不尽な突然死やゲームオーバーに満ち溢れているので、こまめにセーブを繰り返し、デッドエンドに備えることがクリアへの第一歩となるだろう。

なお、『デーモンズリング』へのオマージュとして、『ザナドゥ』にも主人公が使用するアイテムとして「デーモンズリング」が登場する。気になる効果については、『ザナドゥ』のゲーム中で確かめてみて欲しい。

Text by 静川龍宗(2011.06.04 掲載)

トップページへ