ドラゴンスレイヤーVI 英雄伝説

ドラゴンスレイヤーVI 英雄伝説

“ドラスレ”シリーズの新機軸

『ドラゴンスレイヤー』シリーズの第6弾として、1989年12月に発売された『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』(PC-8801版)は、これまでアクションを主体としていた“ドラスレ”シリーズの中で、初めてオーソドックスなコマンド方式を採用したRPGである。今なお新作がリリースされるほどの人気シリーズで、この2007年6月末には最新作『英雄伝説 空の軌跡 the 3rd』の発売も決定。楽しみにしている人も多いことだろう。今回はそんな英雄伝説シリーズにスポットをあてつつ、初代『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』を紹介してみよう。

当時、発売されていた関連書から汲み取れる限りでは、第5弾『ソーサリアン』以前の“ドラスレ”シリーズの各作品は、同一の架空世界に属するものと設定されていたようだ。例えば『ソーサリアン』の中に個別シナリオとして『ロマンシア』が存在し、地理的な繋がりを示していたといった感じである。対して、『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』と、続編『ドラゴンスレイヤー英雄伝説II』(1992年)は“イセルハーサ”という名の新たにデザインされた架空世界を舞台としており、シリーズ名に掲げられている聖剣ドラゴンスレイヤーも登場しない。そういう意味では、“ドラスレ”シリーズの中でも異彩を放っている作品だといってもいいだろう。

ゲームはプレイキャラをイースのように操作してフィールドを移動させ、モンスターとのエンカウント後は『ウィザードリィ』や『ドラゴンクエスト』など、コンシューマ層のゲーマーにも馴染み深いコマンド選択式の戦闘シーンに移行する。戦闘では"オート"というコマンドを使えば、プレイヤーキャラクターを自動で戦闘させることも可能になっている。ある程度強くなってからでないと任せきりにするのは危険だが、こうした部分からもユーザーへの配慮が見て取れる。『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』はスタンダードなRPGとアクションRPGそれぞれの長所を取り入れた絶妙なブレンドにより、従来の作品には見られなかったプレイ感覚を実現した作品だったのである。

小説のように練り込まれたシナリオ

ゲームの舞台であるイセルハーサは、ヨシュア神の加護のもと豊かな自然に恵まれ、精霊の力に満ちたファンタジー世界で、ファーレーン王国、ウォンリーク公国、ラヌーラ王国、ソルディス王国、モレストン共和国という5つの国家に分割統治されていた。主人公のセリオスは、善政で知られるファーレーン国王アスエルの一子。つまり、王太子である。

セリオスが6歳の頃、ファーレーン王国の平和な日々に大事件が発生した。首都ルディアがモンスターに襲撃され、アスエル王が死んでしまったのである。跡継ぎのセリオスはまだ幼少の身。彼が16歳になるまでの間、王の最期を看取った摂政のアクダムが国王代理として執政を司ることになった。

それから10年後。サースアイ島のエルアスタに預けられていたセリオスは、世話係のライアスの目を盗んでは町から抜け出し、草原でのスライムいじめに熱中するやんちゃな若者に成長していた。約束された王位継承の儀を2ヶ月後に控えたある日、10年前の事件の再現かのように、エルアスタの町がモンスターの群れに襲撃されたのである。セリオスはどうにか逃げのびたものの、ライオスと侍女たち、そしてエルアスタを守っていた3人の兵士たちが、彼を逃がすための囮として後に残るのだった。岬の洞窟を抜け、何とか王都へと逃げのびるセリオス。しかし、彼を待ち受けていたのは摂政であるアクダムの裏切りだった。

実は10年前、王国がモンスターに襲われた際、混乱に乗じて主君であるアスエル王を殺害したアクダムは、再びエルアスタをモンスターに襲わせ、セリオス王子を亡き者にして自ら王位に就こうと目論んでいたのだ。王国を護る兵士達も既にアクダムに篭絡されており、セリオスは地下牢に閉じ込められてしまった。ところが、不幸中の幸いというか、アクダム打倒を掲げるレジスタンスの修道士、リュナンの手によってセリオス王子は救出され、彼らと力をあわせて打倒アクダムのために立ち上がるのである。

『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』の魅力として、小説のように練り込まれたシナリオのみならず、個性豊かな登場人物達が挙げられる。“ドラスレ”シリーズに比べればシナリオ重視であった『イース』でも主人公であるアドル・クリスティンが殆ど喋らなかったように、従来の日本ファルコム作品は余りキャラクターの個性を前面に押し出していなかったように思える。それを見事に確立したのが『英雄伝説』シリーズだと思うのだ。厳密に言えば、『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』と同年に発売されたシューティングゲーム『スタートレーダー』が最初のキャラクターゲームだが、以後の実績などを考えると、『英雄伝説』シリーズに軍配が上がるだろう。

以後、この路線は『英雄伝説』シリーズを筆頭にファルコム作品の大きな柱になっていく。そうした意味でも、『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』は、日本ファルコムのターニングポイントとなる作品だったといえそうだ。日本ファルコムのキャラクター路線のルーツを感じたいのなら、ぜひ本作をプレイしてもらいたい。

Text by 森瀬 繚(2010.09.03 掲載)

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