誰もが楽しめる今のゲームと違って、1980年代のレトロゲームの多くは難度は高かった。これは当時のPCゲームはマニアだけのモノだったことが強く影響しており、とにかく手応えがあるものが好まれたことも事実だ。またそれに対して攻略心を燃やしたプレイヤーも多く、いわばメーカーの出す難題にプレイヤーが全力でぶつかっていくという、まるで勝負のような図式が成り立っていた。雑誌などでも攻略記事だけではなく、早解きコーナーや解けないゲームのお助けコーナーが設置されるなど、ある意味で攻略というモノが一番熱かった時期でもある。
ゲーム開始直後の画面。序盤はこの付近で小銭を貯めることになる。
80年代はRPGの全盛期は長く、国産の代表どころでは「夢幻の心臓」(1984年)「サバッシュ」(1988年)「ザ・スクリーマー」(1985年)「覇邪の封印」(1986年)などは、単に難しいだけではなく独特のシステムや世界観は多くのプレイヤーを魅了し、そうした作品は今のRPGに大きな影響を与えたことは間違いないだろう。
敵キャラとして登場する農民。めったに襲ってこないので安心だ。
もちろん筆者も夢中になってプレイした。しかし、当時FM-7ユーザーだったために遊べないタイトルも多く、休日は友達に家で一緒に攻略してみたり、メーカーに電話をかけて移植予定などを聞いてみたりもした。そういえば当時はアットホームなメーカーも多く、電話で質問を受け付けてくれたり、移植予定をこっそり教えてくれた。実に暖かい思い出だ。
川では水棲生物と遭遇することも。定番の巨大タコも登場する。
そうしたタイトルの中で一番思い出深かったのが「夢幻の心臓」だ。ハードな世界観、難度の高さ、マニアにも評価が高かった作品だ。今回は「夢幻の心臓」を紹介していこう。
本作は、死の間際に神への暴言を吐いてしまったがために、天国でも地獄でもない夢幻界に落とされてしまった勇者が主人公で、この世界から脱出するために3万日以内に世界のどこかにある「夢幻の心臓」を手に入れなければならない。ちなみにストーリーにある3万日の期限は設定だけではなく本当で、ゲーム中の時間で3万日が過ぎるとゲームオーバーになってしまう。といっても1万日くらいで攻略できるので焦ってプレイする必要はない。
武器、防具、魔法など物価が高いのでゲーム全般を通じて資金繰りに苦労する。
ゲームはフィールド、塔、ダンジョンを世界を巡ってモンスターと戦い、7つの紋章を揃えて夢幻の心臓を手に入れることになるが、とにかく難度は高い。序盤では町を離れることはできず、ちょっとでも遠出しようものなら強敵が現れて即死。痛い目を見ることになる。さらに金欠になりやすいので資金繰りでヒーヒーいったプレイヤーも多かったに違いない。そういえば、ゲームの保存は中断なので死ぬとデータそのものがなくなってしまうのも難度を高めた要素だった。インチキ技としてリセット技などもあったが、あれなくして攻略できた人はほぼ皆無だったんじゃないだろうか。
冒険中にはダンジョンなどを発見することも。突入する瞬間は緊張したものだ。
レトロゲームファンからは世界観が評価されることが多く、そうした要素の一つに独創的な呪文名も好印象だった。「ホノウヨ ワガ ツルギトナレ」「イニシエノ センシノ タマシイ ヤドレ」「イカズチヨ ワガ テキヲ ホロボセ」など、情緒あふれる呪文名は、当時の筆者の心に強いインパクトを与えたものだ。さらに当時ではモンスターのグラフィックスもインパクトが強く、夢幻の心臓らしい迫力のあるCGはゲームに緊張感を与えた。ちなみに筆者は本作を初めてプレイしたときに、木こりや農民ですらも強そうに見えたために、逃げるを選択したという過去がある(苦笑)。
当時のRPGはフィールドは2D、ダンジョンは3Dという形式が多かった。
久々に夢幻の心臓をプレイしてみたが、ハードな世界観、能動的な行動が求められるゲーム内容、高い難易度を見ていると、どこか洋ゲーのような印象を受けた。よくよく考えてみると、80年代初期のRPGは洋ゲーなどを参考にしていた時期だったように思う。そういう意味では、国内タイトルがもっとも洋ゲーらしさを兼ね備えた不思議な時代だったのではないだろうか。ひょっとしたら今の洋ゲーファンにも受け入れてもらえるかもしれないストイックな本作、ぜひともチェックしてもらいたい。
当時のグラフィックスは興味深い。ゴブリンにしては強すぎるような……。