PCゲーマーにとっての80年代は、プラットフォームに悩んだ時代だった。当時はPCがオープンソースではなかったために、ゲームメーカーは機種ごとにソフトをリリース。だが、すべての機種でソフトがリリースされるわけでもなく、プレイしたいゲームが自分の機種でリリースされなければ移植を待つか、友達の家で遊ぶくらいしかできなかったのだ。
キャラクターメイキングはシンプルなもの。5種類の種族と性別を決めるだけで年齢や体格はランダムで決まる。
筆者の家には新しいモノ好きの父親が気まぐれで購入したFM-8があったが、初期のPCということであまりゲームがなく、次にFM-7に買い換えたことからゲームライフが充実し始める。ところが親がビジネスソフトを多く使うこともあってPC-9801シリーズへと移行してしまった。当時はPC-8801がゲーム、PC-9801はビジネスソフトといった図式もあり、ゲーム数の圧倒的に多いPC-8801ユーザーをうらやましく思いながら過ごしたモノだ。しかし、それも杞憂に終わった。やがてPC-9801でもゲームのリリースが続々と増え始め、移植どころかPC-9801でしかプレイできないゲームも増えたのだ。
最初にもらえるクエスト。これを攻略しないとセーブができない。ここでくじけるようならプレイの資格はない。
そうした中で取り上げたいのが、システムソフトが1986年にリリースした「エリュシオン」。当時、雑誌の広告を見て、「シナリオのあるガントレットのようなRPGが発売される! おまけにPC-9801専用(後にファミコン版もリリースされたがハッキリ言って別物だった)じゃないか!」と鼻息を荒くして友達と語り合ったものだ。
「エリュシオン」は、一見リアルタイムのRPGのように見えるが、実はターン性のRPG。自分が一歩動けば、敵も一歩動くという形式なので、戦略を考えながらプレイするというスタイルが楽しめる。といってもキーを押し続ければリアルタイムのようなノリでゲームを進めることもできるようになっている。
広大なオープンフィールドも用意されている。特定のルートで歩かないとワープする迷いの森なども存在していた。
当時としては興味深い要素が多かった。最初のクエストである試練の迷宮はオープニングみたいなもので、そこをクリアーしないとセーブできるようにならないとか、一定の周期で登場する強力なライバルの黒騎士との戦いに悩まされたり、地面に落ちている白骨死体に近づくと立ち上がって襲いかかってきたり、物語後半では最強の剣を活性化するために剣を手にしたまま死ななければならない(剣に命を捧げる?)とか、当時としてはあっと驚かされる演出の数々に大きな興奮を覚えたものだった。
ダンジョンの探索。どこかしら「ティル・ナ・ノーグ」に似ている気がするのは気のせいだろうか?
ほかにも戦闘も魅力満載だった。本作ではスペースキーを押すことで向いている方向を殴ることができたが、Shiftを押しながら攻撃することで防御を捨てての強打ができるなどのシステムは斬新だったし、移動もslow、middle、fastの三段階があり、速く歩くと敵に気がつかれるとか、パーティが組めないのを不満に思っていたら、物語後半では魔法によって分身を作り出したり、角笛を吹くことでユニコーンを召還して一緒に戦ったりもできた。最後の魔王との戦いでは魔法の武器や防具で身を固め、魔法で分身し、さらに精霊やユニコーンの助力を得て戦うといった感じで、あんなに派手な戦いが楽しめたのは、いまとなってもいい思い出である。
ダンジョンなどでは、モンスター同士も戦っている。当時、これは非常に新鮮な演出であった。
PC-9801でしかリリースされなかったために、本作の知名度はそれほど高くないが、自信を持って秀作といいたい。少なくとも筆者が遊んだRPGの中ではかなり上位に入る作品である。そしてここでの世界観やノウハウがあったからこそ、あの「ティル・ナ・ノーグ」が生まれたと言ってもいいだろう。確かに「エリュシオン」は「ティル・ナ・ノーグ」とはゲームシステムは違うが、どこか似たものを感じさせてくれるものがある。もしも「ティル・ナ・ノーグ」ファンであるならば、チャレンジしても損はしないはずだ。
宝箱の中身はランダムのものもある。序盤で手には入るslime daggerはスライム戦に効果が高い剣だ。
記事を書くにあたってEGG版をプレイしてみたが、再びエンディングまでプレイしてみたいと素直に思った。隠れたハードファンタジーの名作に触れたい人や、当時PC-9801ユーザーではなかったことから涙をのんだ人は、この機会にぜひとも遊んでもらいたい。
試練の迷宮の最難関。この扉が開けられれば……。